昭和レトロなレシピ集『中原淳一の幸せな食卓』

読書感想文

昭和レトロな料理レシピを紹介した『中原淳一の幸せな食卓』は、おしゃれでノスタルジックなレシピ集です。昭和20~40年代に掲載された料理レシピを紹介しています。

中原淳一さんといえば、「少女の友」「それいゆ」「ひまわり」といった少女・女性雑誌を彩ったイラストレーターです。

その美意識はファッションに生活全般にわたり、日々の暮らしや、美しい心のあり方を提唱されていました。

サンドイッチやケーキ、スープなど、現代でも作れそうな料理が掲載されています。しかし、戦後すぐの料理レシピ、中には現代では考えられない材料が使われていました。

おどろきの昭和20年代レシピ

まず、調味料や材料名が現代とはかけ離れています。昭和20年代のレシピでは使用する材料に「配給のパイナップル缶詰」「配給の砂糖」などの記述があります。

当時は自由に食料品を買えず、配給制という戦後の食糧事情がかいま見れます。

また、今ではよくわからないこれらの単語。

  • サッカリン
  • ズルチン
  • メリケン粉
  • チサ

これ、なんのことだと思います?サッカリンとズルチンは昔の人工甘味料でした。健康を害するということで現在では使用されていません。

メリケン粉は小麦粉のこと。これは年配の人はまだ使ってますね。

ちなみに「チサ」は「チシャ=レタス」のことです。

当時、砂糖は貴重な甘味だったらしく、レシピの中でも「砂糖は耳かき3杯」と、使用量は少なかったのです。

ちなみに、「耳かき1杯」は「ひとつまみ」ほどだとか。

憧れの昭和40年代レシピ

昭和40年代に入ると、物資も豊富になったせいか、豪華なレシピが目立ちます。

ゆで卵を大量に使ったサラダ、トマトをくり抜いてサーモンを詰めた料理などが登場。こちらも日常食というより「晴れの日のごちそう」なのでしょうね。

また、この本にはアスパラガスのサラダなども紹介されています。昭和40年ではまだ、アスパラガスもめずらしい野菜でした。きっと、高級なスーパーなどでなければ手に入らなかったことでしょう。

レトロで優雅なレシピ

昭和レトロのレシピは、料理名も今と違います。サラド、ジェリー、ケーク、コンソメエ…。これらの料理名は現代の言葉より優雅でノスタルジックな雰囲気があります。


たまにはこのレシピを眺めながら、ゆっくりお料理を作ってみたいものです。

レトロレシピ漫画

市川ジュンさんの『懐古的洋食事情』は明治から昭和までの洋食にまつわる物語です。

こちらでも「チシャ」「ブフェ」「ホールクコットレット」など、レトロでノスタルジックな響きの洋食がでてきます。

作るのではなく、料理を楽しむ本

この本に掲載されたレシピは、主に昭和20年代の雑誌に掲載されたものなのです。しかし、当時は敗戦直後で食糧難の時代。

餓死者がでるほどだったのに、レシピの料理はどこか浮世離れした印象があります。

本の注釈では「食糧難の時代、何人の人がビーフコンソメを作れたのでしょうか」と、ツッコミにも似た文章が書かれています。

おそらく、これらの「作る」というより「読んで楽しむ」レシピというより読み物だったのではないでしょうか。

実際に作ったり食べたりできなくても、読んで空想を膨らませたり、実際にこんな豪華な料理を作れる暮らしを想像したり。

もののない時代だからこそ、レシピに夢をもたせたのかもしれません。

中原淳一の料理担当・エプロンおじさんの話

中原淳一のお弟子さんに当たる料理研究家・牧野哲大さん。この本の料理も担当されています。こちらの『エプロンおじさん 牧野牧野哲大の味』も面白いのでおすすめです。

中原淳一は女性を描かせたらすごいのですが、料理の絵はあまり好きではなかったのですって。

美しい心のあり方

中原淳一の提唱する美しい暮らしは、豪華な食材をつかうことではなく、食卓におかれた一輪の花であったり、おもてなしの心であったりするのです。

自分でかわいいエプロン縫ったり、食卓の飾りつけなどで日々の暮らしを丁寧におくること、それこそが幸せな食卓なのかもしれません。