『人魚變生』山田章博

レトロ 読書感想文

はじめて見たときから、その絵に心を奪われた山田章博の漫画『人魚變生』。『十二国記』のイラストを手掛けた山田章博さんの初期の名作で、緻密な描写と怪しく美しく、レトロで不可思議な物語に今も魅了されています。

『人魚變生』あらすじ

港町の酒場で酒浸りの男に声を酒をおごるものがいた。男は昔、船医として外洋に出ていたが、ある事件をきっかけに船を降りた。男に声をかけた人物は、「人魚の話をしてほしい」と言う。彼は中性的で美しい容貌をしていたが、黒眼鏡をかけ、若いのに杖ついている。

男は酒の礼にと、昔話を始める。むかし、足の不自由な少女を広い「美魚(メイユウ)」と名付け愛したこと、そして彼女を殺したことを。

細密で妖艶な筆致とノスタルジックな世界観

山田章博さんの魅力は、その細密な筆致。筆のようなタッチで異国の風景や人魚の神秘的で妖艶な姿を描いています。男は少女を秘密裏に船の中に囲い、各地で買い集めた品々で彼女を飾るのですが、そのエキゾチックな雰囲気に魅了されたものです。物語の不思議さと相まって、山田画伯の描く世界に惹きつけられていきました。

近頃では珍しくありませんが「左右目の色が違う」キャラクターというのも当時は新鮮で、メイユウという人ならぬものの雰囲気をよく表していました。

影の美しさと、コントラストのはっきりした女性の描写など、ほんとうに筆舌に尽くしがたい作家さんです。

人魚變生

『人魚變生』には他にも、怪しげな魔術を使うが貧乏くじをひく小悪魔『魔法使いの弟子』(これはのちにシリーズ化)、死んだ美しい娘の骨に魅入られる画家の話『素描集みずは』など、コミカルからホラーのような作品まで多種多彩。

『天空人讃揚』では、仙人と女仙が滅びてしまった世界を語る物語ですが、「卵から生まれた」という仙人が登場します。まさかその後、卵から人が生まれる異世界『十二国記』のイラストを担当するとは、山田画伯もこのときは思ってなかったでしょうね…。

レトロな雰囲気に美しくて儚く、どこかエロティックさを持ち合わせた神秘的な女性。近年お気に入りイラストレーター・マツオヒロミさんなど、こういった世界観の私は絵に弱いのです。