昭和30年代の闇『三丁目の猟奇』

読書感想文

2021年、埼玉県の西武園ゆうえんちが昭和30年代の商店街を再現し、レトロゆうえんちとしてリニューアルしました。

同じく昭和30年代を舞台にした映画『ALWAYS三丁目の夕日』は、日本アカデミー賞で受賞するなど、経済成長と人々の絆という輝かしい昭和の姿が称賛されています。

しかし、光があれば闇もある。昭和30年代は公害やテロ、犯罪なども増えた時代です。西武園ゆうえんちの寸劇では泥棒が出てきますが、当時はこうした泥棒や押し売りも多かったのです。

そんな昭和30年代の「闇の部分」を取り上げたのが唐沢俊一・ソルボンヌK子さんによる『三丁目の猟奇』。昭和30年代の犯罪について赤裸々に描いています。

心中事件

今ではあまり聞かなくなった「心中事件」。当時はまだ家長制度が残っていたため、親に反対されたり、不倫などの果てに心中を選ぶことが多かったようです。

有名なのはラスト・エンペラーの弟・愛新覚羅溥傑の娘・慧生と日本人学生による心中は映画にもなりましたが、一説には男が一方的に死のうとして巻き込まれた可能性もあるそうで…。

また、女性同士の恋愛を描いた「百合」が流行りの昨今ですが、昔もそれなりにあったようで、商家の奥方と女中という女性同士の心中事件がありました。なんで心中に至ったかというと、旦那が両方の女性に手を付け2人とも妊娠したからだったそうな。

バラバラ殺人

京極夏彦の小説に、バラバラ殺人は猟奇的だけではなく現実的な判断であるというように書かれていましたが、死体をバラバラにする理由は人それぞれ。

捨てやすくなると考えた主婦が愛人と共謀して夫をバラバラにしたり、精神異常の青年が少年を殺してホルマリン漬けにして眺めていた…なんて事件もあったそうです。

治外法権の昭和日本

今も在留のアメリカ軍の犯罪は耳にしますが、昭和ではまだまだ外国人の犯罪が正当に裁かれなかったそうで、日本人スチュワーデスを殺した容疑者のベルギー人を取り調べても、結局逃げられてしまったとか。

また、昭和33年時点でアメリカ軍の犯罪は被害届が出されているだけで約1万件あったそうで、当時の日本はまだ敗戦国だったんですね。

光があるから闇が濃い

『三丁目の猟奇』を読んでみて思ったのは、令和でも昭和でも、犯罪はいつの世の中も同じようなことが起こるのだなあと。

犯罪も多いが人情もあった昭和、犯罪は昔より少ないが救済の少ない現代、どちらかいいかは人それぞれです。

私自身は清潔で比較的治安のよい現代で暮らしながら、昭和レトロを愛するのがいちばんいいかなと思っています。

タイトル『三丁目の猟奇』はおそらく映画『三丁目の夕日』のパロディ。昭和の光と闇の対比にこれほどふさわしいタイトルはないと思います。