耽美な谷崎潤一郎の文章と蠱惑的なマツオヒロミのイラストが魅力の『乙女の本棚シリーズ 秘密』。
『乙女の本棚』は、文豪の名作と現代のイラストレーターがコラボした、まるで読む画集のような美しい本のシリーズです。
→『乙女の本棚』では、他にも文豪の名作をイラストレーターが表現
なかでも『百貨店ワルツ』でレトロモダンな女性たちを描くマツオヒロミさんは、私のお気に入りです。
それは、彼女の作品を見たさに、商業誌以外の同人誌画集まで購入するほど。
(同人誌というと、いわゆる「薄い本」は、エロのイメージがありますが、マツオヒロミさんの画集は美しくてクオリティが高いのです。)
そんなマツオヒロミさんが谷崎潤一郎の『秘密』をイラストで表現。ページを捲ると耽美で妖艶、モダンで美しい世界が広がります。
いま、乙女の季節を謳歌する方も、かつて乙女だった方にもぜひ。
『秘密』谷崎潤一郎
世間のしがらみを断って隠遁する男。彼は刺激を求め女装で夜の街をうろつくようになる。ある日、活動写真(映画館)で、昔なじみ女を見かけ、秘密の逢瀬をもつのだが…といった物語。
いまでこそ女装は当たり前ですが、明治の頃は「商売」の人以外が女装をするなんて、それこそ犯罪者扱いをされたことでしょう。主人公の男は、そんなアブノーマルなスリルを楽しみながら夜の街を徘徊します。
発表は明治45年ですが、谷崎潤一郎の文の美しさと耽美な雰囲気が今読んでも刺激的。
谷崎作品では『刺青』『痴人の愛』『春琴抄』など、エロスやフェティシズムを扱った作品が多いのが特徴です。
また、マツオヒロミさんのイラストだけでなく、文章のフォントや装丁にも谷崎イズムが踏襲されています。ほんと、ほかの谷崎小説もイラスト化してほしい…。
『秘密』マツオヒロミ
『百貨店ワルツ』『ILLUSTRATION MAKING & VISUAL BOOK マツオヒロミ』などで、レトロでモダンな女性を描いてきたマツオヒロミさん。谷崎の耽美な世界観を十二分にイラストで表現されています。
主人公が秘密の逢瀬を重ねるT女の憂いを含んだ表情、主人公のデカダンな雰囲気。戯れにはじめた女装で街を歩き、視線を集めるゾクゾクとした感覚。
マツオヒロミ作品の魅力、和風モダン以外にも、作品に合わせてシノワズリ(中国風)やアール・ヌーヴォーなどのデザイン要素が取り入れられているところ。
こちらのイラストも、エスニックのような、浮世絵のような雰囲気があります。ずっと眺めていられます…。
このシリーズでは、今の乙女が名作にふれる機会を与えてくれます。また、昔の乙女には名作を読み返すきっかけをつくってくれれる本です。
『秘密』を手に入れたことで、私はすっかり『乙女の本棚』に魅了されてしまいました。他のシリーズも読んでみたい…。